最終更新日 2025年10月13日 by ineyard
オリムピック・ナショナル・ゴルフクラブは、単に「広い」という言葉では片付けられない、一つの思想を持った場所です。
コース設計者、グリーンキーパー、そして訪れるゴルファー。
すべての要素が複雑に絡み合い、ここでしか味わえないドラマを生み出しています。
私の仕事は、そのドラマの裏側にある物語を掘り起こすこと。
特に、今回のように45ホールという多様な表情を持つ場所は、一般的なゴルフ場とは違う「何か」を教えてくれます。
この記事のゴールは、あなたが次にONGCを訪れた際に、単なるスコアアップだけでなく、そのコースが持つ「戦略的な意図」までを読み解き、一歩深いゴルフの醍醐味を感じられるようになることです。
参考: オリンピックナショナルゴルフクラブ EASTコース レストランの口コミ
目次
そもそもオリムピック・ナショナル・ゴルフクラブとは?
まずは、この壮大な舞台の基本情報から整理しましょう。
首都圏最大級、45ホールの壮大な舞台
オリムピック・ナショナル・ゴルフクラブ(ONGC)は、埼玉県入間郡に位置します。
もともと別々のゴルフ場だったものが統合され、現在ではEASTコース(18ホール)とWESTコース(27ホール)の合計45ホールを持つ、首都圏屈指の規模を誇るゴルフリゾートとして知られています。
この規模の施設を維持・管理するには、並々ならぬ努力とコストがかかっていることは想像に難くありません。
だからこそ、私のような取材者は、芝の美しさの奥にある「人の想い」に注目せずにはいられないのです。
それぞれに顔を持つEAST、WEST
ONGCの難しさを語る上で重要なのは、この2つのコースが、それぞれ異なる設計思想と顔を持っていることです。
EASTコースの横顔:優美な曲線と心理的圧力
EASTコースは、旧エーデルワイスゴルフクラブの流れを汲み、ダイ・デザイン社がその設計思想に携わっています。
オールド・スコティッシュ・デザインの伝統をベースにしつつ、広大なサンドバンカーや池が戦略的に配置されており、優美でありながらもプレイヤーの心理に深く揺さぶりをかけるレイアウトが特徴です。
WESTコースの横顔:戦略性と多様性のトライアングル
WESTコースは、旧鶴ヶ島ゴルフ倶楽部として親しまれ、その後の改修をジム・ファジオ氏が監修しました。
ここは、アザレア、カメリア、シバザクラの9ホールが3つ組み合わさった、合計27ホール構成です。
単調さを一切感じさせない多様なホール構成は、「力だけでは通用しない、考えるゴルフ」をプレイヤーに要求します。
【土地の記憶】世界的設計者が仕掛けた「思考の罠」
私はよく、ゴルフ場を「土地の記憶を掘り起こす場所」と表現します。
特にONGCのように、世界的設計者が関わったコースには、彼らのゴルフ哲学が色濃く反映されています。
彼らは、単に「グリーンに乗せる」という行為の難しさではなく、「どのルートで、どのクラブで攻めるか」という、選択の難しさをゴルファーに仕掛けているのです。
WESTコースに息づく“リスクとリワード”の哲学
WESTコースの監修者であるジム・ファジオ氏は、ジャック・ニクラウスの設計哲学とも通底する、「リスクとリワード(報酬)」の考え方をコースに埋め込んでいます。
- リスクを取れば、バーディという大きな報酬が得られる。
- しかし、失敗すれば、ダブルボギーのペナルティが待っている。
この哲学は、特にシバザクラコースの雄大な打ち下ろしホールなどで顕著です。
美しい景観に惑わされ、不用意にドライバーを握りたくなる衝動を、どれだけ理性で抑えられるか。
これが、WESTコースが仕掛けてくる最初の「思考の罠」と言えます。
EASTコース:なぜ、ポテトチップスグリーンはゴルファーを惹きつけるのか
EASTコースの難しさの象徴は、そのグリーンです。
プレイヤーの間で「ポテトチップスグリーン」と揶揄されるほどの強烈なアンジュレーション(起伏)は、まさにダイ・デザイン社の真骨頂。
- 視覚的なプレッシャー: グリーンに乗ったと思っても、そこからが本番という恐怖感。
- 技術的な要求: 複雑なラインを正確に読み、完璧なタッチで打つ技術。
- 戦略性の要求: セカンドショットで、グリーンのどのエリアを狙うか、という緻密な計算。
これは、単なるパッティング技術のテストではありません。
「ゴルフは、結局、グリーン周りからが勝負」という、設計者からの強烈なメッセージなのです。
【人の想い】美しさに潜む、グリーンキーパーとの静かな対話
ゴルフ場の記事を書くとき、私は必ずグリーンキーパーの方々に話を聞きます。
彼らの努力こそが、私たちが立つ「緑の絨毯」の美しさを保っているからです。
「芝は嘘をつかない」- 完璧なコンディションという名の挑戦状
ONGCの芝生のコンディションに対する評判は、非常に高いものです。
特に、2日目の朝、ハンドドリップのコーヒーを飲みながら、取材班に同行してくださったキーパーの方と交わした会話が忘れられません。
私が「本当に美しい芝ですね」と伝えると、彼は静かにこう言いました。
「美しい芝ほど、ゴルファーにとって厳しい挑戦状なんです。完璧なコンディションだからこそ、言い訳ができないでしょう?」
彼の言葉を聞いて、私は改めて痛感しました。
芝は嘘をつかない。
誤魔化しの効かない完璧なコンディションは、そのままプレイヤー自身の技術と精神力を正直に映し出す鏡なのです。
これは、過去に景観を誇張して失敗した経験を持つ私自身の信条とも重なる、重い言葉でした。
季節ごとに変わる表情、自然との共作が生む難しさ
45ホールという広大な敷地では、一律の管理は不可能です。
日当たりの違い、風の通り道、土壌の含水率。
グリーンキーパーは、それぞれのホールの特性を熟知し、季節の移り変わり、特に「風」の向こうにある自然の意図を読みながら、毎日芝の手入れをしています。
彼らの「人の想い」と「自然の力」の共同作業こそが、ONGCの持つ「多様な難しさ」を生んでいるのです。
この努力の結晶の上に立つだけで、私たちはすでに、スコアを超えた価値ある体験をしていると言えるでしょう。
【プレイヤーの体験】45ホールを歩いて見えた「3つの本当の難しさ」
45ホールすべてを歩き、3コースすべての「芝目」を読んだ結果、ONGCの本当の難しさは、その圧倒的なスケールが生み出す以下の3つの要素に集約されると確信しました。
難しさ①:視覚が惑わす「景観のプレッシャー」
ONGCの景観は、時にプレイヤーを魅了し、時に惑わせます。
広大なフェアウェイ(努力が報われる道)に見えても、実際は緻密なハザード(罠)が待ち構えている。
たとえば、EASTコースの池。
水面に映る青空があまりにも美しく、無意識のうちにその水面へボールを運びたくなってしまうような、心理的な引力があるのです。
これは、ただのミスショットではなく、「景観という名のプレッシャー」に負けた結果なのです。
難しさ②:一日では掴めない「コースの多様性」
通常18ホールを回るゴルファーにとって、45ホールの多様な顔は、一日では到底攻略できません。
- WEST(アザレア):ダイナミックな攻め方が要求される。
- WEST(カメリア):フラットなようで、水絡みの罠が多い。
- EAST:アンジュレーションの強いグリーンという、最後の試練。
どのコースを回っても、攻略法が通用しない。
常に新たな局面で、頭を切り替えることを強要されます。
これが、45ホールを持つコース特有の、真の難しさと言えるでしょう。
難しさ③:技術だけでは超えられない「戦略性の壁」
結局、ONGCのコース設計は、「力任せのゴルフは許さない」というメッセージに尽きます。
技術と戦略の適切なバランスこそが、このコースの鍵となります。
技術が90%、戦略が10%で通用するコースもありますが、ONGCは「技術60%、戦略40%」の配分を要求してきます。
ただまっすぐ飛ばすだけでなく、
- グリーンの傾斜を予測して、あえて手前に落とす。
- バンカーを避けるため、刻むルートを選択する。
- 風の向こうに、人の物語があることを想像し、謙虚にクラブを選ぶ。
こうした「戦略性の壁」こそが、多くのゴルファーが本当の意味で乗り越えられない、究極の難しさなのです。
まとめ:スコアの先にあった、ゴルフの豊かさとは
45ホールを歩き終えたとき、私のクラシックカメラのシャッターは、早朝の霧が晴れた後の、鮮やかな芝生の緑を切り取っていました。
オリムピック・ナショナル・ゴルフクラブの本当の難しさは、スコアシートの数字ではなく、そのコースに込められた設計者の「思考の罠」と、それを完璧に維持しようとする「人の想い」、そしてそれに立ち向かう「プレイヤーの心の動き」にあると強く感じました。
ONGCは、あなたが持つ技術と戦略、そして何よりも「ゴルフに対する姿勢」を正直に問いかけてくる舞台です。
最後に、読者であるあなたに問いかけたいと思います。
次にONGCを訪れるとき、あなたはただスコアを追うだけでなく、この壮大な45ホールの物語の、どのページをめくる準備ができていますか?
スコアでは測れない、ゴルフの「本当の豊かさ」を、ONGCでぜひ見つけてください。